真っ白い雪の飛沫を上げながら、滑り降りる緩やかな ”SPUR”
「SPUR(シュプール)」とは、ドイツ語で「足跡」「轍」を意味し、日本では主にスキーの滑り跡のことを指します。弧を描くように真っ白いゲレンデに描かれる曲線は、キャンバスに筆を置く瞬間を思わせます。
ここでは一点物の絵画を販売しています。毎日の生活の中で重ねた思いや、旅先で眩しく心に刻まれた記憶を、一つ一つ作品にしています。作品との出会いが誰かの心に「SPUR」を残していけたら、これほど嬉しいことはありません。
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のたうつ文字の見た夢
¥88,000
まどろんで頭がぼーっとするときに幻覚を見るとしたら、私が見るのはうねうねと動き回る光の筋の集合体だ。スマホを暗闇の中で見るから、四角い画面の中の文字や写真がのたくっていて、なんだかそれがひどく楽しそうに見えたりして、少し寂しくなっているうちに眠りに落ちる。 画材:画用紙、木製パネル、クレヨン サイズ:728mm x 728mm
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なめしあげられた春のこと
¥97,000
私と同じ毛皮を着ているふりをして、全然違う毛皮を着させられたとき、相手の毛皮を切り裂いてやれたらよかったのに。いくつもの毛皮をかわるがわる着ることに慣れていたせいで、なんだか見栄え良くなめされた皮を着せられることになってしまった。 よくなめされたその皮があまりにもタイトで、形が良くって、私のもとの毛皮はぐしゃぐしゃと締め付けられて、なんだか皴だらけになっている。 額装済み 画材:画用紙、クレヨン サイズ:660mm x 585mm (額装込みサイズ)
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私を誘うあの場所についてⅠ
¥1,300,000
生まれ育った土地というのはやはり心落ち着くもので、私にとっては飛騨高山の山深い農村がそうでした。その土地を離れて、都心に住むようになってからも、時々登山をしたり、地方に旅に出たりするのはその安らぎを求めているからでしょうか、自然の息吹というのは私にとって、ゆったりと流れていく時間であり、澄んだ空気と香り、目を休める優しい光です。 都心で過ごすせわしない日々は、私を追い立て、不安を掻き立て、搾取していきます。しかしその一方で、一人の個人として他に縛られない自由さを与えてくれます。都市で出会う人々は、私が作り上げた関係性で成り立っていて、他に依存しない自分だけの居場所も、私がひとりで過ごした時間が作り上げてきたものなのだという自信が、私に何よりの安息を与えます。それは美しく慣れ親しんだ自然から感じる安らぎとは全く別物の、自身のアイデンティティに対する信頼による安息なのです。 生まれ育った土地に戻るたび感じるのは、その自然の美しさと対比するように表れる「個の喪失感」です。慣習と関係性に絡めとられる、自身の弱々しいまでのアイデンティティの様を見てしまうのです。幼い私を育てた美しい自然の伊吹は、いつしか私の心から離れ、憧れの対象へと変わってしまいました。 画材:キャンバス、スプレー サイズ:1820mm x 1450mm
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「野良馬」 2019
¥32,000
SOLD OUT
馬たちは群れで生活する生き物で、遊牧民はその習性を利用して馬たちを操る。一頭が走り出せば次第に周りの馬もつられて走り出すのだ。 とはいえ、モンゴルの馬たちは個性が強く、よくしつけられた日本の馬のように素直に従うわけではない。進め、止まれ、もっと速く…。それぞれの馬の癖をつかんでいなければ、そのような指令を自在に伝えることは出来ない。 「くも」と呼ばれる馬がいて、彼女はいつも群れの先頭に出たがった。速く走るのが好きなようで、やっと馬に慣れ始めた私を乗せて、素晴らしいスピードで丘を駆け上がった。私の経験した中で、一番早い風が肌を触り、髪をすり抜けた。 額装済み 画材:画用紙、水溶性クレヨン、色鉛筆 サイズ:260mm x 320mm (額装込みサイズ)
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「眩しい地下」 2019
¥74,000
SOLD OUT
海辺の坂の町、入り組んで所狭しと家が立ち並び、猫が駆け回る。頬を掠める潮風に私はなじみがない。海沿いの町はとても明るく、ぐるり山に囲まれた故郷が薄暗く思える。 家と家の間を縫って電車が走る。どうやって向こう側に行こうかと思うと、線路の下に小さくて武骨な地下道があった。下りて写真を撮っていたら、ちょうど上を電車が走って轟音に包まれて、そして走り去った後の静かな地下道に差し込む光が、より一層眩しかった。 額装済み 画材:画用紙、水溶性クレヨン、色鉛筆 サイズ:407mm x 523mm (額装込みサイズ)
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「長い夜に熱い喉が鳴る」 2019
¥111,700
SOLD OUT
仲間たちは総じて酒が好きで、集まれば大抵酒を用意した。大人数で飲むのは楽しいが、だんだんと脱落者が出始め、気付けば残るのはたいてい4,5人の猛者たちか、ただの呑兵衛か。 明るいうちに始まった宴も、その頃にはとっぷり深夜で、時間の流れも蜜のように濃くて緩やかになっている。黄金色の酒と、オレンジ色の薄暗い明りと、長年使われてすり減り滑らかな木のテーブルの質感は相性が良すぎて、酔った頭では輪郭を混同させてしまう。 楽しいのはこんなふうに時間の流れが遅くなってから。ジョッキがぶつかる音だって、波紋が広がるようにゆっくりだ。 ※絵画二枚組の作品になります。 額装済み 画材:画用紙、水溶性クレヨン、色鉛筆 サイズ:814mm x 414mm (額装込みサイズ)
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「surface」 2019
¥83,500
SOLD OUT
点から線、線から面へと広がる境界は、ついに三次元の世界への足掛かりを手に入れ、本の1ページのように捲り上がる…。 三人展「点・線・面」の際に、共同制作として制作した作品。 額装済み 画材:画用紙、水溶性クレヨン、色鉛筆 サイズ:505mm x 505mm (額装込みサイズ)
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「見上げた窓」 2018
¥162,000
都会に住むようになって、孤独な時間の自由さに慣れ始めた私は自分のアイデンティティと郷愁を混同し始めた。故郷を懐かしみながら、同時に拒絶する思い、そして都市に埋もれていく孤独…。 ある晴れた午前、眩しすぎる空を見上げると、立ち並ぶタイル張りのビルが揺らめき、暗い窓は日差しを跳ね返して網膜を突き刺してきた。 額装済み 画材:画用紙、水溶性クレヨン、色鉛筆 サイズ:800mm x 650mm (額装込みサイズ)
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「ticket」 2017
¥350,000
電車の旅の朝は大抵早くて、なかなかそんなに早く起きることはないから、旅の朝はいつも新鮮味があった。片手には少し大きなチケット。手のひらサイズのチケットは、旅の実感を思い出させて愛着が湧いた。お得な期間限定の乗車券、特急は乗れないけど、私はだらだら見知らぬ街の景色を眺めて旅するのが好きだからちょうど良かった。駅で押してもらった色々な土地のスタンプが 5 つ。今日でこの旅も終わり。 何時間もずっと電車に乗っていくつもの町を通り過ぎていくうちに、朝の光から昼の光に変わる。真昼の電車の中は薄暗い。外は余計に明るいけど、太陽が真上にあるから電車の中は暗いのだ。ふと居眠りをして目が覚めると、知らない街の小さな駅だった。電車は空いていて、同じ車両には、私と、地元の人らしいおばあさんと。二人しか乗っていない。駅名は見ていないけどずいぶん遠くに来たなあと感じた。 外は晴れていて住宅街があり、その向こうに青い入り江が見えた。四角い窓から黄色い昼の光が差し込んで、向かいの座席と茶色い床に四角い影を作っている。膝の上には置いたままのチケット。昼下がり、電車が駅に停車していた束の間の静かな車内。 画材:キャンバス、油彩 サイズ:1303mm x 1303mm